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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《ひとごろし》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 頁

青空文庫

う。六兵衛のあたまの中で、無意識にそのことがちらちらしていたのであった。

「そうか、そんなことだったのか、ばかばかしい」と彼は高い空を見あげたままで呟き、大きな溜息をついた、「――そうだとすれば、追いかけている相手にうしろから呼びとめられるなんて、おれこそ荒神さまみたようなもんじゃないか、ふざけたはなしだ」

ふざけたようなはなしだ、と呟きながら、六兵衛は自分のみじめさに涙ぐんだ。これからどうしよう、福井へは帰れないし、重職から与えられた路銀には限りがある。どこか知らない土地へいって、人足にでもなってやろうか、――そんなふうに思いあぐねていると、くに訛りのつよい言葉で、人の話しあう声が聞えてきた。

「人殺しだって、ほんとか」と一人の声が云った、「それで、誰か殺されたのか」

「うまく逃げた」と他の声が云った、「お侍だったがうまく逃げた、逃げたほうが勝ちよ、相手はおめえ鬼のような凄い浪人者で、十人や二十人は殺したような面構えをしていた、嘘じゃねえ、往来の衆もみんなふるえあがって、てんでんばらばら逃げだしたもんだ」

「ふーん」と初めの声が云った、「おら、これから御城下までゆくつもりだが、その浪人者はまだいるだかえ」