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ひどいけむり
ひどい煙
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《ひどい煙(ひどいけむり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,064 字 · 18 頁
火繩を持った半十郎の手が、宙に浮いたまま、硬直したように動かなくなった。自分は、砲術と大砲の領収を世職にする家に生れたのだが、これでもう、生涯、大砲から玉を打ちだす能力を失ったのだということを、このとき、はっきりと自覚した。事実、なにか目に見えぬ力が、半十郎の手をおさえこんでいるふうで、いくら火繩を振りまわしてみても、どうしても導火管に火を移すことはできなかった。
正保三年の九月、父、外記が、小栗長右衛門の邸で、長坂と稲富喜太夫を突き伏せ、おのれもまた、腹背から刺されて死んだ。
前日、外記は、例の五十町射ちの件で、喜太夫と躑躅の間で争論した。田付四郎兵衛なら知らず、貴様の技倆では、五貫目玉の五十町射ちは覚束なかろうと、満座のなかで手きびしくやりつけたので、喜太夫も勘弁ならず、この日頃、鬱積していた怒りを一時に爆発させて、思うさまに言い返した。長坂と鷹匠頭の小栗長右衛門が割って入って、ほどよく双方を宥めたが、おさまりそうにも見えないので、長坂の邸へ外記と喜太夫を連れこみ、小栗のほかに、小十人頭の奥山茂左衛門も呼んで、二人に和解の盃を交換させた。瓶子と盃を二人の前に別々に置いてまず一杯飲み、そののち、たがいに酌をして、更に一杯飲み、喜太夫の飲んだ盃を外記に差させた。