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ひょっとこ

ひょっとこ

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《ひょっとこ》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,838 字 · 12 頁

青空文庫

死んだのは四十五で、後には痩せた、雀斑のあるお上みさんと、兵隊に行っている息子とが残っている。暮しは裕だと云うほどではないが、雇人の二三人も使って、どうにか人並にはやっているらしい。人の噂では、日清戦争頃に、秋田あたりの岩緑青を買占めにかかったのが、当ったので、それまでは老鋪と云うだけで、お得意の数も指を折るほどしか無かったのだと云う。

平吉は、円顔の、頭の少し禿げた、眼尻に小皺のよっている、どこかひょうきんな所のある男で、誰にでも腰が低い。道楽は飲む一方で、酒の上はどちらかと云うと、まずいい方である。ただ、酔うと、必ず、馬鹿踊をする癖があるが、これは当人に云わせると、昔、浜町の豊田の女将が、巫女舞を習った時分に稽古をしたので、その頃は、新橋でも芳町でも、お神楽が大流行だったと云う事である。しかし、踊は勿論、当人が味噌を上げるほどのものではない。悪く云えば、出たらめで、善く云えば喜撰でも踊られるより、嫌味がないと云うだけである。もっともこれは、当人も心得ていると見えて、しらふの時には、お神楽のおの字も口へ出した事はない。「山村さん、何かお出しなさいな」