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びんのなかのせかい

びんの中の世界

小川 未明

線上閱讀小川 未明《びんの中の世界(びんのなかのせかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 4,126 字 · 9 頁

青空文庫

日は、いつしか海に沈んで、野原に咲いている赤い花も黒ずんで見えたのであります。そして、月が大空に上がり、その下を流れている川の水が、一筋の銀の棒を置いたように、白く光って見えたのでした。

二人を乗せた馬は、村の往来までくると止まりました。そこからは、もう、正坊のお家がじきだったのです。

「さあ、もうここからなら、ひとりで帰れるだろう。」といって、男は、正坊を馬の脊から下ろしてくれました。

「おじさん、あの町は、なんというの?」と、正坊は、振り返って問いました。

「…………」と、男は、いい残して、馬にむちをあてて去りました。

正坊は、男のいった言葉が、よく、はっきりと耳にはいらなかった。そのうちに、ひづめの音は遠ざかり、影は、月の明かりに、だんだん小さくかすんだのです。

おばあさんは、門から出たり、入ったりして、正坊を探していられた。そこへ、正坊は帰って、その日のできごとの話をすると、おばあさんは、頭を振って、

「ばか、なにをいう。きっと、おまえは、きつねにでもばかされたのだろう……。」といわれました。

正坊は、町の名を聞きもらしたのが残念でした。おそらくそのことは、永久に、彼にとって残念であったにちがいない。