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みさごのすし
みさごの鮨
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《みさごの鮨(みさごのすし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,198 字 · 47 頁
座敷の入口に、いかにも(上段の間)と札に記してある。で、金屏風の背後から謹んで座敷へ帰ったが、上段の室の客にはちと不釣合な形に、脇息を横倒しに枕して、ごろんとながくなると、瓶掛の火が、もみじを焚いたように赫と赤く、銀瓶の湯気が、すらすらと楊貴妃を霞ませる。枕もとに松籟をきいて、しばらく理窟も学問もなくなった。が、ふと、昼飯の膳に、一銚子添えさせるのを言忘れたのに心づいて、そこで起上った。
どこを探しても呼鈴が見当らない。
二三度手を敲いてみたが――これは初めから成算がなかった。勝手が大分に遠い。座敷の口へ出て、敲いて、敲きながら廊下をまた一段下りた。
「これは驚いた。」
更に応ずるものがなかったのである。
一体、山代の温泉のこの近江屋は、大まかで、もの事おっとりして、いま式に余り商売にあせらない旅館だと聞いて、甚だ嬉しくて来たのであるが、これでは余り大まか過ぎる。
何か、茸に酔った坊さんが、山奥から里へ迷出たといった形で、手をたたき、たたき、例の玄関の処へ出て、これなら聞えようと、また手を敲こうとする足許へ、衝立の陰から、ちょろりと出たのは、今しがた乳母どのにおぶわれていた男の児で、人なつッこく顔を見て莞爾々々する。