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みなかみきこう

みなかみ紀行

若山 牧水

線上閱讀若山 牧水《みなかみ紀行(みなかみきこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 102,087 字 · 203 頁

青空文庫

伊豆は天産物の豊かな上によく細かな所にまで気をつけて人々がその徳を獲ようとする、と云った数年前天城を越す時道連になった年若い県技手の話を私は端なく思い出した。国が暖かだから山椒の芽や桜餅に用いる桜の葉などを逸早く東京あたりへ送り出す、その山椒の価額が年平均何万円、桜の葉が何万円、などとその技手は細かな数字をあげて話して呉れたのであった。そんな風でこの伊豆には模範村と表彰された村が全体で何個村とかあると云う事であった。気候や地味を利用する事には余程鋭敏な国であるらしい。

今度は独りだけに荷物とても無く、極めて暢気に登って行くとやがて峠に出た。何という事なく其処に立って振返った時、また私は優れた富士の景色を見た。いま自分の登って来た様な雑木山が海岸沿に幾つとなく起伏しながら連っている。その芝山の重なりの間に、遥かな末に、例の如く端然とほの白く聳えているのである。海岸の屈折が深いから無数の芝山の間には無論幾つかの入江があるに相違ない。その汐煙が山から山を一面にぼかして、輝やかに照り渡った日光のもとに何とも云えぬ寂しい景色を作っているのである。現にいま老人と通って来た阿良里と田子との間に深く喰い込んだ入江などは眼の醒むる様な濃い藍を湛えて低い山と山との間に静かに横わって居るのである。