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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《めおと蝶(めおとちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 頁

青空文庫

はじめた。

――なんだかいやに冷淡になったね、逃げてばかりいるじゃないか、私が嫌いになったのか。

知也にそう云われたときの、隠しようのない混乱とふしぎな歓びの感情を、信乃は今でもありありと思いだすことができる……それから約半年ばかり後のことだったろう、青井川の葦の中で、ふいに信乃は知也に抱かれた。そのときは知也の母と、こちらは信乃と母と妹と、兄の繁二郎と六人で、螢狩りに出たのであった。はじめ繋いだ屋形船の中で重詰をあけ、船宿から三人ほど来て酒を温ためたり、生簀から揚げた魚を作って出したり、賑やかに小酒宴をひらいた。

信乃はそのうちに妹にせがまれて、やむなく独りで螢を取りに船から出た。船宿で作って呉れた小笹の束ねたのと、螢籠を持って、なかなか取れない螢を追ってゆくうち、いつか広い河原の葦の繁った中へまぎれこんでいた。そこへ知也が捜しに来たのである。

――信乃さん、どこです、信乃さん。

こう呼ぶ声が聞えた。信乃は黙っていた。くすくす笑いながら、黙ってしんと葦の中に立っていた。しかし信乃は白っぽい絽の単衣を着ていたので、飛び交うおびただしい螢の光にうつって見えたのだろうか、やがて葦をかき分けながら知也が近づいて来た。