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やぶからし

やぶからし

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《やぶからし》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 頁

青空文庫

「おれはな」とあの方はもっと声をひそめた、「江戸で人をあやめたんだ、それでこっちへぬけて来たんだが、こっちでも間違いができちまった、ここで二十両の都合がつかねえと野詰めになる、そうすれば、細貝の名も出ずにはいねえ、――おれだって死ぬか生きるかというどたん場になれば、やっぱり死にたかあねえからな、そうなれば細貝の名を出すほかに助かるみちはねえんだから、わかるだろう、すず」

わたくしは肌へ氷を当てられたようにぞっとした。すずと呼ばれたからでもあるが、「家名を出す」ということの恐ろしさと、それが単純な威しではないということを直感したからである。わたくしは仕合せであった。

細貝家は平安で明るく、幸福そのものといってもよい。あの方はそれを知っている、そんなにもおちぶれ、人を殺傷し、ここでも窮地に追い込まれているようだ。

――いざとなれば、どんなことでもするだろう。

たとえ除籍してあっても、細貝家の一人息子だったことに変りはない。いまどんな騒ぎに巻きこまれているか知らないが、そのほかに助かる方法がないとすれば、この人はきっと、細貝八郎兵衛の子だ、と名のるにちがいない。