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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
線上閱讀辻村 伊助《スウィス日記(スウィスにっき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 216,275 字 · 410 頁
同じ名の宿に着いたのは午後三時、谷はもう片蔭になって、見上げる瀑布の絶壁をかざる、一面のつららを仰いで、その紀行を思いだした時、渓の空は濃く深く澄みきって、かすれ雲の一つ二つ、ミュルレンの空にたなびいていたのを覚えている。
ホテル・シュタウプバッハは洒灑た宿である。然し本館は九月の末から閉じてしまって、リュチーネに向かったシャレーに、小さな室をあてがわれた、板敷の、低い天井も旅らしくて面白い。すぐ側は会堂で、塔の頂はシュワルツ・メョンヒに対している、下はすぐ墓原につづいて、冬なれば瀑の音はひびかず、暮れてゆく渓谷に鳴りわたる瀬の音が寥しかった。折り折り瀑のつららが砕け落ちて、三、四度両側の絶壁に木魂する。十八ばかりの女中が、ピアノを弾いてたくらいだから、御客は無論私一人、今のは何だいと聞いて見たら、オーベルラントの民謡ですって笑っていた、夜は村の仲間が集まって、トリオをやるんですなんて中々得意だった、伴奏かいって聞いて見ると、案外かな、アルトだそうな、それはいい処へやって来たねと御世辞を並べたら、咽喉が痛いから唱わないんだそうだ、道理で小さな咳ばかりしている、小供だから大方煙草がきらいなんだろうと思って、平気でいたがこれは少々可愛想な。