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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《ズラかった信吉(ズラかったしんきち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 頁
素早くのび上って、アクリーナは、信吉の顎のところへキッスした。そして一層しなしなした熱い体を信吉にすりよせた。
「どう? ある?」
信吉が返事する間もないうちに、アクリーナは両手で信吉の両手をつらまえ、
「さ」
とベンチから立ち上った。
「行こうよ」
「……どこへだ?」
捉まえた信吉の両手ごと自分の胸の間へたくし込んで囁いた。
「あっちへ……森へ――」
アーク燈に数多い葉の表を照らされ菩提樹の下は暗い。落葉や小枝をピシピシ靴の下で踏みながらアクリーナが先へ立って茂みの奥へ奥へと行く。信吉の気分がそうやって歩いてるうちにハッキリとして来た。それと同時に遠方のクラリオネットの音が耳について来た。
「おい」
アクリーナはサッサ歩いてく。
「おい」
「何さ」
「どこへ行くんだよ……俺行かねよ」
アクリーナが立ちどまった。信吉は楽な気分になって、からかう気で、
「絹の靴下ねえから、行かないよ」
妙な顔して、アクリーナがすたすたまた小枝を踏みつけながら戻って来た。ぴったり信吉と向いあい、首をかしげるようにして、
「……嘘云うもんじゃないよ」
――あんまり本気な調子だ。思わず信吉はアクリーナの顔を見つめた。