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ゼーロン

ゼーロン

牧野 信一

線上閱讀牧野 信一《ゼーロン》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,533 字 · 29 頁

青空文庫

父親の姿に接する時程私は陰気な虚無感に誘われる時はない。私は屡々その肖像画を破棄しようと謀って、未だに果し得ないのであるが、やがては屹度決行するつもりでいる。――詩は、饑餓に面した明朗な野からより他に私には生れぬ。

「お前の、その背中の重荷の売却法を教えてやろうよ。」

と半鐘は信号した。

「それは?」

私は思わず、眼を視張って、賛意の動いた趣きをコリント式の体操信号法に従って反問した。

「生家に売れ、R・マキノの像として――。寸分違わぬから疑う者はなかろう。」

Rというのは十年も前に亡くなったあの肖像画の当人である。私の放浪も十年目である。

「なるほど!」

名案だ! と私は気づいたが、同時に得も云われぬ怖ろしい因果の稲妻に打たれて、私はおそらく自分のと間違えたのであろう、ゼーロンの耳を力一杯つかんだ。そして鞍から転落した。

「走れ!」

と私は叫んだ。

私は、ゼーロンの臀部を敵に激烈な必死の拳闘を続けて、降り坂に差しかかった。驢馬の尻尾は水車のしぶきのように私の顔に降りかかった。その隙間からチラチラと行手を眺めると、国境の大山脈は真紫に冴えて、ヤグラ嶽の頂きが僅かに茜色に光っていた。