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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《パノラマ島綺譚(パノラマとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 頁
苔を褥に頬杖をついて、腹這いに沼を覗いているのです。
「まあ、あんな所に……」千代子は思わず声を揚げました。
「黙って」
廣介は、娘を驚かせまいとする様に、合図をして彼女の声を止めるのです。
娘は見る人のあるのを知ってか知らずにか、依然として放心の様で沼の表を見入っています。森の中の沼、岸辺の椿、腹這いになった無心の裸女、この極めて単純な取合せが、如何にすばらしい効果を示していたでしょう。若しこれが偶然でなくて、意図された構図であるならば、廣介はいとも優れた画家と云わねばなりません。
二人は長い間岸に立って、この夢の様な光景に見とれていたのですが、その長い間に少女は組み合せていた豊かな足を、一度組み直したばかりで、あきずまに、物憂い凝視を続けているのでした。やがて、千代子が廣介にうながされて、驢馬に乗り、そこを立去ろうとした時に、少女の真上に咲いていた目立って大きな椿の花が一輪、液体がしたたる様に、ポトリと落ちて、少女のふくよかな肩先を滑り、沼の水に浮んだのです。でも、それが余りに静であったものですから、沼の水も気づかなかったのか、一筋の波紋を描くでもなく、鏡の様な水面は依然として微動さえもしませんでした。