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ヒルミふじんのれいぞうかばん

ヒルミ夫人の冷蔵鞄

海野 十三

線上閱讀海野 十三《ヒルミ夫人の冷蔵鞄(ヒルミふじんのれいぞうかばん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 頁

青空文庫

口実をつくって、旅に出ようかとも考えた。だが永くてもせいぜい二、三ヶ月のことであった。一生の永きに比べると、そんな短い期間の解放がなにになろう。

発狂したことにして、病院に入ったことにしてはどうであろう。しかし病院をしらべられるとすぐお尻がわれる。

ではヒルミ夫人を巧みに殺害してはどうであろうか。いや人殺しなんて、およそ万吉郎の趣味にあわないことだった。怪しまれでもして、本当に刑務所に送られてしまえば、そんな大きな犠牲はない。

それでは誰かすこぶるの好男子をさがしだして、不倫を強いるようで悪いが、ヒルミ夫人が恋慕するようにはからってはどうであろうか。やっぱりそれも拙い。ヒルミ夫人はそんな多情な女ではない。ただ一人の万吉郎を狂愛しているのであって、そうは簡単に男を変えるような夫人ではない。ではこれも駄目。――

万吉郎は無意識に砂利場の礫を拾っては河の面に擲げ、また拾っては擲げしていた。

すると突然意外な事件が降って湧いた。万吉郎の前に、河のなかへ落ちこんだ高い石垣がある。その石垣の向うから、不意に人間の首がヌッと現れたのである。

「――よせやい。なんだって俺に石を擲げるんだ。