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ボロやのしゅんじゅう

ボロ家の春秋

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《ボロ家の春秋(ボロやのしゅんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 頁

青空文庫

「そうですか。それでは明日にでも、五千円持って税務署に参上します」

「いやいや、飛んでもない。あんたも忙しい身でしょうから、明日の昼頃にでも、こちらから伺いますよ」

「そうですか。重ね重ね御親切な――」

僕は厚く礼を言い、そして伝票をつまみ上げました。時間はもう午後の五時半でした。

それから家に戻って来ると、野呂は台所でじゃぶじゃぶと洗濯をしていましたが、僕の姿を見るなり言いました。

「やあ、お帰り」日頃とちがった調子の良さでしたが、何かムリにつくったような声でした。「どこに行ってたんだね?」

「八王子のオヤジんとこに行って来た」と僕は嘘をつきました。

「家を何時頃出たんだね?」と野呂がさりげなく訊ねてきました。僕はふふんと思ったですな。

「そうだねえ。君が出て一時間ほど経ってだから、八時ちょっと前かな」

「そうかい」

野呂は安心したような声を出し、それっきり黙ってしまいました。あの手紙を見られたかどうか、遠廻しに打診してみたんでしょう。こちらはうまうまと嘘をついて、身をかわしたわけです。それから僕は部屋に戻って、しばらく腹をよじり声を忍んで笑いました。野呂のやつが不破から権利をゆずり受けると、そのとたんにパタリと差押えが来て、家は僕のものになってしまう。