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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《マクシム・ゴーリキイの伝記(マクシム・ゴーリキイのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 頁
番頭が怪しからん小僧を足蹴にした。主人は重い金の指環で頭を殴りつけた。サーシャは厳しく云うのであった。
「何もおかしいことなんかないじゃないか! 女ってものはな、靴なんかいらなくったって、好きな番頭の顔さえ見れば、欲しくないものまで買うんだ。それをお前は――何だい、分りもしない癖して!」
ゴーリキイの心を更に苦しめ、腹立たしくするのは、女客に対する店じゅうの者の恥知らずな蔭日向であった。黒毛皮の外套の素晴らしい美しい女が店へ入って来る。主人、番頭、サーシャ「三人が三人とも、鬼の子みたいに店を駆け廻り」あたりのものが燃え出したかと思うような亢奮の後、高価な靴を何足か選び出してその女客が店を出るや否や、主人は舌打ち一つして、
「チェッ! 畜生!……」
と掠れ声を出す。
「マア、女優ってところですな」
蔑んだ調子で番頭が合槌を打つ。そして、散々いかがわしい話をする。
小僧ゴーリキイは「そんな時には、店から駈け出して行って、婦人客に追い縋り、彼等についての陰口をぶちまけてやりたい心持に駆り立てられる」のであった。
三人の者が、心に激しい猜みを抱いて暮していて誰のことでも、何か悪いところしか拾い出さないのが、彼に嫌悪を催させた。