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ひとあしおさきに
一足お先に
夢野 久作
線上閱讀夢野 久作《一足お先に(ひとあしおさきに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 40,200 字 · 79 頁
スッカリ落ち着いて来た。
私は生れ付きの瘠せっぽちで、身軽く出来ている上に、ランニングの練習で身体のコナシを鍛え上げていたので、松葉杖の呼吸を呑み込むくらい何でもなかった。敷詰めた棕梠のマットの上を、片足で二十歩ばかりも漕いで行って、病院のまん中を通る大廊下に出た時には、もう片っ方の松葉杖が邪魔になるような気がしたくらい、調子よく歩いていた。その上に、久し振りに歩く気持よさと、持って生れた競争本能で、横を通り抜けて行く女の人を追い越して行くうちに、もう病院の大玄関まで来てしまった。
その玄関は入院しがけに、担架の上からチラリと天井を見ただけで、本当に見まわすのは今が初めてであった。花崗石と、木煉瓦と、蛇紋石と、ステインドグラスと、白ペンキ塗りの材木とで組上げた、華麗荘重なゴチック式で、その左側の壁に「御見舞受付……歌原家」という貼札がしてある。その横に、木綿の紋付きを着た頑固そうな書生が二人、大きな名刺受けを置いたデスクを前にして腰をかけているが、その受付のうしろへ曲り込んだ廊下は、急に薄暗くなって、ピカピカ光る真鍮の把手が四つ宛、両側に並んでいる。