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さんじゅっさい
三十歳
線上閱讀坂口 安吾《三十歳(さんじゅっさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 頁
それは、なんとまア、くだらない疲れを重ねさせたじゃないの、と云うようにも思われた。
然し、私の宿への道を、無言に、重苦しく歩いていると、とつぜん、矢田津世子が言った。
「四年前に、私が尾瀬沼へお誘いしたとき、なぜ行こうと仰有らなかったの。あの日から、私のからだは差上げていたのだわ。でも、今は、もうダメです」
矢田津世子は、すべてをハッキリ言いきったつもりなのだが、その時の私は、すべてを理解することは出来なかった。
私は、もっと、意地わるく、汚らしく、考えた。
私はまず、四年前に、自らすゝんでからだを与えようとしたことを、執念深く、今となって言い訳しているのだという風に考えた。つづいて、下心を見ぬき合い、その一室へ歩きつゝある今となって、自らすゝんで肉体のことを言いだすのは、それもテレカクシにすぎないのだ、ということであった。
「なぜ、ダメなんです」
と、私はきいた。
「今日は、ダメです」
と、答えて、言いたした。
「今日は、ダメ。また、いつかよ」
まるで、鼻唄か、念仏みたいな、言い方であった。
私は、もう、返事をしなかった。私は一途にテレカクシを蔑み、下品な情慾をかきたてゝいたにすぎない。