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さんじゅっさい

三十歳

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《三十歳(さんじゅっさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 頁

青空文庫

そしてそれはすべて矢田さんに語り伝えられていたであろう。

私はその三年間、あの人のことを思いつめていたのだ。そう云ってしまえば、たしかにそうだ。私の感情はあの人をめぐって狂っていた。恋愛というものは、いわば一つの狂気であろう。私の心にすむあの人の姿が遠く離れゝば離れるほど、私の狂気は深まっていた。

私はあの人をこの世で最も不潔な魂の、不潔な肉体の人だという風に考える。そう考え、それを信じきらずにはいられなくなるのであった。

そして、その不潔な人をさらに卑しめ辱しめるために、最も高貴な一人の女を空想しようと考える。すると、それも、いつしか矢田津世子になっている。気違いめいたこの相剋は、平凡な日常生活の思わぬところへ別の形で現れてもいた。

そして私が「いづこへ」の女と別れる時には、私はどうしてもこの狂気の処置をつけなければならないことを決意していたのである。求婚の形でか、より激しく狂気の形でか、強姦の形でか、とにかく何か一つの処置がなければならぬことだけは信じていた。

矢田津世子も、たぶん、そうであったらしい。二人は別々に離れて、同じような悲しい狂気に身悶えていたらしい。