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みうらろうじんむかしばなし
三浦老人昔話
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《三浦老人昔話(みうらろうじんむかしばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,637 字 · 224 頁
傘は用意して来たが、この大雨を衝いて出るほどの勇気もないので、わたしは停車場の構内でしばらく雨やどりをすることにした。そのころの構内は狭いので、わたしと同じような雨やどりが押合っているばかりか、往来の人たちまでが屋根の下へどや/\と駈け込んで来たので、ぬれた傘と湿れた袖とが摺れ合うように混雑していた。
わたしの額には汗がにじんで来た。
わたしのそばには老女が立っていた。老女はもう六十を越えているらしいが、あたまには小さい丸髷をのせて、身なりも貧しくない、色のすぐれて白い、上品な婦人であった。かれはわたしと肩をこすり合うようにして立っているので、なんとも無しに一種の挨拶をした。
「どうも悪いお天気でございますね。」
「そうです。急にふり出して困ります。」と、わたしも云った。
「きょう一日はどうにか持つだろうと思っていましたのに……。」
こんなことを云っているうちにも、雷はかなりに強く鳴って通った。その一つは近所へ落ちたらしかった。老女は白い顔を真蒼にそめ換えて、殆どわたしのからだへ倒れかゝるように倚りかゝって眼をとじていた。雷の嫌いな女、それはめずらしくもないので、わたしはたゞ気の毒に思ったばかりであった。