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みうらろうじんむかしばなし
三浦老人昔話
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《三浦老人昔話(みうらろうじんむかしばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,637 字 · 224 頁
油じみた女の櫛、誰でもあんまり好い感じのするものではありません。殊にそれが川のなかから出て来たことを考えると、ます/\好い心持はしないわけです。隠亡堀の直助権兵衛という形で、阿部さんはその櫛をじっと眺めていると、どこからかお岩の幽霊のような哀れな声が又きこえました。
「置いてけえ。」
今までは知らなかったが、それではこゝが七不思議の置いてけ堀であるのかと、阿部さんは屹と眼を据えてそこらを見まわしたが、暗い水の上にはなんにも見えない、細い雨が音もせずにしと/\と降っているばかりです。阿部さんは再び自分の臆病を笑って、これもおれの空耳であろうと思いながら、その櫛を川のなかへ投げ込みました。
「置いていけと云うなら、返してやるぞ。」
釣竿とびくを持って、笑いながら行きかけると、どこかで又よぶ声がきこえました。
「置いてけえ。」
それをうしろに聞きながして、阿部さんは平気ですた/\帰りました。
二
小身と云っても場末の住居ですから、阿部さんの組屋敷は大縄でかなりに広い空地を持っていました。お定まりの門がまえで、門の脇にはくゞり戸がある。両方は杉の生垣で、丁度唯今のわたくしの家のような恰好に出来ています。