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みうらろうじんむかしばなし

三浦老人昔話

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《三浦老人昔話(みうらろうじんむかしばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,637 字 · 224 頁

青空文庫

山路でした。路の勝手はかねて知っているので、森垣さんはその山路をのぼって、中腹の平なところへ出ると、そこには小さい古い社があります。うしろには大木がしげり合っていますが、東南は開けていて、今夜の月を遮るようなものはありません。城の櫓も、城下の町も、城下の川も、夜露のなかにきら/\と光ってみえます。それを遠くながめながら、森垣さんは社の縁に腰をおろしました。

「こゝなら些とぐらい吹いても、誰にも覚られることはあるまい。」

譜はもう暗記するほどに覚えているのですが、それでも念のためにその巻物を膝の上にひろげて、森垣さんは大きい法螺の貝を口にあてました。その時は、もう命はいらないほどに嬉しかったそうです。前に云った足柄山の新羅三郎と時秋とを一人で勤めるような形で、森垣さんはしずかに吹きはじめました。夜ではあり、山路ではあり、こゝらを滅多に通る者はありません。たまに登ってくる者があったところで、それが何という譜を吹いているのか、とても素人に聞き分けられる筈はないので、森垣さんも多寡をくゝっていました。

それでもやはり気が咎めるので、初めの中は努めて低く吹いていたのですが、月はいよ/\明るくなる、吹く人もだん/\興に乗ってくる。