輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
しゃんはい
上海
横光 利一
線上閱讀横光 利一《上海(しゃんはい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,628 字 · 292 頁
――
だが、お杉の頭には、辰江の絹の靴下が、珍稀な歓楽を詰めた袋のようにちらちらした。唇の紅の色が、特別な男の舌のように、秘密を持って膨れて見えた。と、彼女は、またいつものように、自分を奪ったものは参木であろうか、甲谷であろうかと迷い出した。彼女は、あの夜の出来事が――自分を奪ったあの男は、二人の中のどちらであろうかと思い煩う念力のために、きりきり廻った無謀な風のように中心を無くし出した。そうしてお杉は、今は一切のことが分らぬままに、女の中の最後の生活へと早道をとり始めたのだ。
胡弓の音が遠く泥の中から聞えて来た。お杉は橋を渡ると、見覚えた春婦のように通る男の顔を眺めてみた。彼女の前の店屋では、べたべた濡れた臓物の中で、口を開いた支那人が眠っていた。起重機の切れた鎖の下で、花を刺した前髪の少女が、ランプのホヤを売っていた。河岸に積み上った車の腐った輪の中から、弁髪の苦力が現われると、お杉の傍へ寄って来て笑い出した。お杉は背を縮めて歩いていった。すると、男は彼女の後からついて来た。お杉は慄えながら後ろを振り返って男にいった。
「ちがう、ちがう。」
彼女は周章てて露路の中へ駈け込むと、せかせかと、幾つもの角を曲っていった。