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よにでるまで

世に出るまで

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《世に出るまで(よにでるまで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,557 字 · 15 頁

青空文庫

私は同棲の女と別れ、長篇小説を書いて古い私を棄てて新しく生れ変ってきたいために、孤独をもとめて京都へ行った。そこに隠岐和一がいたからだ。私が京都へたつとき、尾崎士郎が両国のモモンジ屋でイノシシを御馳走してくれて送別の宴をはってくれたが、その日は宇垣内閣流産のさなかで、東京駅附近はまるで戒厳令下のように物々しい風景であった。

京都の伏見に一室をかりて私は長篇小説を書きはじめたが、七百枚ぐらいは二ヶ月ほどで書いてしまったが、最後の章をどうしても書く気にならなくなったのである。それから約一年、京都で碁と酒にふけって暮した。気持にハリが全然なくなり、まるでもう、埃をかぶった骨董屋のデク人形のような毎日毎日であった。碁だけはかなり上達した。ようやく「吹雪物語」を書きあげて、翌年初夏に帰京して出版し、次の作品を書くために利根川べりの取手というところに部屋をかりて移り住んだが、心にもなく、短篇小説をかいたり、東京新聞の匿名批評をかいたりして小遣いをかせいでは飲んだくれているような有様で、狙っていた長篇は一字も書くことができないダラシなさであった。

そのとき小田原の三好達治から便りがあって、小田原へ来て一しょに住まないかといってきたので、それは大そう好都合と、さっそく三好達治のところへ居候をきめこんだ。