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ぼしぞう
久生十蘭短篇選
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《久生十蘭短篇選(ぼしぞう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,344 字 · 96 頁
それも豚みたいな声でなく女なんだ。いやだ、いやだ、こんな汚いところに生きていたくない。今夜のうちに死んでしまおう。死にでもするほか、汚ないものを身体から追いだしてやることができない。
太郎はロッカーから母の写真や古い手紙をとりだして、時間をかけてきれぎれにひき裂くと、炊事場の汚水溜へ捨てた。なにか仕残したことはなかったかと、部屋のなかを見まわしたが、しておかなければならないようなことは、なにもなかった。
「することなんかあるわけはない。ぼくには明日というのがないんだから」
始発の電車が通る時間まで「ちょっと眠っておく」という簡単な作業のほか、自分の人生にはもうなにもすることがないのだと思うと、その考えにおびえて、枕に顔を埋めてはげしく泣きだした。
「果してお前は堕落した。酔っぱらって相模線のレールの上を歩いていて、電車に轢かれかかったそうだな。酒まで飲むとは、先生も思わなかった」
半当り――酒なんか飲んでいなかったが、ぼくは酔っぱらっていたのかもしれない。夜が明けかけていた。ホームと改札口にパッと電灯がついた。間もなく始発が入ってくるというしらせだった。