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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《二つの庭(ふたつのにわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 頁

青空文庫

文句を思い出すことは出来なかった。けれども、たしかにそれはあった。

素子があやしんで注目するほど、伸子は念入りに皿のおはぎをいくつにもちぎりながら、それを食べるのを忘れていた。武島裕吉の生きかた、つまりはその死にかたにも賛成していない伸子は、いまの自分の心にその武島裕吉が連想されたことがいやであった。

十五

「ぶこちゃん……動坂へ行く約束してあるんだろう」

「約束ってほどでもないけれど……」

日曜日の朝、素子がいいだした。

「行っといでよ」

「ええ……でも、行ったって……」

「ピアノでも弾いて来た方がいいんだ」

素子がそういうには理由もあった。土曜日のロシア語の稽古に浅原蕗子が来たとき、素子は最近のニュースという工合にして、前日来た三人のぼうぼう頭の青年たちの話をした。すると蕗子が、いつも変らないふっくりとして沈着な表情で、

「どちらがお会いになりましたの?」

と、二人を見くらべた。

「それゃ、もちろんぶこちゃんですよ。私なんぞは無名の士じゃありませんか」

「お金おやりになりました?」

「やるいわれなんかあるもんか! さすがのぶこちゃんも堂々とことわりましたよ」