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ふたつのてがみ

二つの手紙

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《二つの手紙(ふたつのてがみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,799 字 · 24 頁

青空文庫

さて、私及私の妻に現れたドッペルゲンゲルの事実は、どんなものかと申しますと、大体においてこれまでに三度ございました。今それを一つずつ私の日記を参考として、出来るだけ正確に、ここへ記載して御覧に入れましょう。

第一は、昨年十一月七日、時刻は略午後九時と九時三十分との間でございます。当日私は妻と二人で、有楽座の慈善演芸会へ参りました。打明けた御話をすれば、その会の切符は、それを売りつけられた私の友人夫婦が何かの都合で行かれなくなったために、私たちの方へ親切にもまわしてくれたのです。演芸会そのものの事は、別にくだくだしく申上げる必要はございません。また実際音曲にも踊にも興味のない私は、云わば妻のために行ったようなものでございますから、プログラムの大半は徒に私の退屈を増させるばかりでございました。従って、申上げようと思ったと致しましても、全然その材料を欠いているような始末でございます。ただ、私の記憶によりますと、仲入りの前は、寛永御前仕合と申す講談でございました。当時の私の思量に、異常な何ものかを期待する、準備的な心もちがありはしないかと云う懸念は、寛永御前仕合の講談を聞いたと云うこの一事でも一掃されは致しますまいか。