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『いぶせますじせんしゅう』こうき

『井伏鱒二選集』後記

太宰 治

線上閱讀太宰 治《『井伏鱒二選集』後記(『いぶせますじせんしゅう』こうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,132 字 · 20 頁

青空文庫

の如き面影があった。

私は、その頃まだ学生であった。しかし、早稲田界隈の下宿生活には縁が薄かった。謂わば、はじめて見たといってもよい。それは、遠慮なく言って、異様なものであった。

井伏さんが、歩いていると、右から左から後から、所謂「後輩」というものが、いつのまにやら十人以上もまつわりついて、そうかと言って、別に井伏さんに話があるわけでも無いようで、ただ、磁石に引き寄せられる釘みたいに、ぞろぞろついて来るのである。いま思えば、その釘の中には、後年の流行作家も沢山いたようである。髪を長く伸ばして、脊広、或いは着流し、およそ学生らしくない人たちばかりであったが、それでも皆、早稲田の文科生であったらしい。

どこまでも、ついて来る。じっさい、どこまでも、ついて来る。

そこで井伏さんも往生して、何とかという、名前は忘れたが、或る小さいカフェに入った。どやどやと、つきものも入って来たのは勿論である。

失礼ながら、井伏さんは、いまでもそうにちがいないが、当時はなおさら懐中貧困であった。私も、もちろん貧困だった。二人のアリガネを合わせても、とてもその「後輩」たちに酒肴を供するに足りる筈はなかったのである。