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『いぶせますじせんしゅう』こうき
『井伏鱒二選集』後記
線上閱讀太宰 治《『井伏鱒二選集』後記(『いぶせますじせんしゅう』こうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,132 字 · 20 頁
やがて、井伏さんの最初の短篇集「夜ふけと梅の花」が新潮社から出版せられて、私はその頃もう高等学校にはいっていたろうか、何でも夏休みで、私は故郷の生家でそれを読み、また、その短篇集の巻頭の著者近影に依って、井伏さんの渋くてこわくて、にこりともしない風貌にはじめて接し、やはり私のかねて思いはかっていた風貌と少しも違っていないのを知り、全く安心した。
私はいまでも、はっきり記憶しているが、私はその短篇集を読んで感慨に堪えず、その短篇集を懐にいれて、故郷の野原の沼のほとりに出て、うなだれて徘徊し、その短篇集の中の全部の作品を、はじめから一つ一つ、反すうしてみて、何か天の啓示のように、本当に、何だか肉体的な実感みたいに、「大丈夫だ」という確信を得たのである。もう誰が、どんなところから突いて来たって、この作家は大丈夫なのだという安心感を得て、実に私は満足であった。
それ以来である。私は二十五年間、井伏さんの作品を、信頼しつづけた。たしか私が高等学校にはいったとしの事であったと思うが、私はもはやたまりかねて、井伏さんに手紙をさし上げた。そうしてこれは実に苦笑ものであるが、私は井伏さんの作品から、その生活のあまりお楽でないように拝察せられたので、まことに少額の為替など封入した。