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しぐれがさ

人情武士道

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《人情武士道(しぐれがさ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,700 字 · 51 頁

青空文庫

どのくらいの刻が経ったであろうか。顔にかかる雨がいつか歇んでいるのに気付いて、ふと振仰いでみると、頭上に傘がさしかけられている。

――傘……傘……

初めはなんのことか解らなかった。

それから静かに振返えると、右側にひき添って、お雪が立っているのをみつけた。

宗七はいきなりぎゅっと、胸をしめつけられたように感じた。切ないような、……苦しいような、哀しいような、なんとも云いようのない感動がぐいぐいと胸をしめつけ、鼻の奥へつんと酸っぱいものがつきあげて来た。

仕事の「魔」に憑かれたような、ひと筋に突詰めた宗七の感情のなかへ、生れて初めて、……温い心の肌触りが沁入ったのである。宗七は眼の覚めたような気持で、

「……お雪」

と云いながら立上った。お雪の全身が顫えた。

「……宗さん」

「ばか!」

「勘忍して」

「こんな、夜更けに、なんだって……」

「だってあたし」

お雪は蒼白になっていた。

「あたし、おまえさんの……女房だもの」

「ば、ばか……風邪をひいたらどうするんだ」

「勘忍して」

立上った宗七の胸へ、お雪は顫えながらしっかと縋りついた。宗七はそれを両手で抱緊めた。二人はぎごちなく相抱き、泪に濡れた頬をすり寄せながら、わなわな身を震わせた。