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しぐれがさ
人情武士道
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《人情武士道(しぐれがさ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,700 字 · 51 頁
至は同じ歩調で歩きながら云った、「それを灰島の娘にも話したのか、かねという女があり、三歳になる子があるということを話したのか、幸枝さんがそれでもいいと云ったのか」
「ああ西郡それは、……それは」
「早く来い」至は冷やかに附け加えた、「日が暮れると足許が不自由だ」
「…………」
追い詰められた獣のような、残忍なものが次郎太の眼に光った。咄嗟の決意である。足早に追いつきながら刀の鯉口を切ると、次郎太は抜討ちに、うしろから相手の背を狙って叩きつけた。夕闇に白刃が飛び、だっと躯と躯とがひとつになった。暖かな一日の名残りで、川面から灰色の夕靄が流れて来る。二つの躯は、その朧ろのなかで、影絵のように烈しく揉み合うと見えたが、直ぐに至は次郎太を組み伏せていた。「……貴様のやりそうな事だ」
至は相手の首根を押えつけ、片手で大剣をぎ取ると、そのまま静かに立ち上った。次郎太は俯伏せに倒れたまま動かなかった。
「まさかと思ったが」至は裾をはたきながら、「やっぱり貴様は、貴様の手しか持っていなかったな、いつもこのとおり、人の油断につけこんでは旨いことをしようとする、だがこれだけ出せば、もう貴様の悪智恵も種切れだろう」