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しぐれがさ
人情武士道
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《人情武士道(しぐれがさ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,700 字 · 51 頁
「帰れ!」藤吉は、ついに我慢を切らして叫んだ。
「これほど頼んでも否なら勝手にしやあがれ、名人とか蜂の頭とか云われて逆上てやあがる。てめえとは、たったいま縁を切った。帰れ!」
「親方、そ、それはあんまり」
「帰れと云うのに、帰らねえか、面を見るのも癪だ、二度とこの家の敷居は跨がせねえぞ」
手荒く盃をほうりだすと、藤吉は裾を払って二階へ立去った。
宗七は、間もなくぼんやりと、佐野屋の店を出た。
それでなくとも蒼い顔は紙のように乾いて、秋雲のかかった鈍い陽射しも眩しそうに、眉を顰めたまま力なく拾うように歩いて行く。――すると、八丁堀の河岸へ出たとき、うしろから足早に一人の娘が追って来た。
藤吉の娘お雪である。
父親に似たのであろう、鈴を張ったような大きな美しい眸をして、羽二重肌で、濡れたように朱いちんまりとした唇をもっている。年は十九だが、まだ十七ほどにしか見えない初心々々しい娘だった。
「宗さん、宗さん、待って」
「……あ、お雪さん」
宗七は、慌ててふところ手を出した。娘は円くふくれた胸を波うたせながら、
「もういちど、帰って、宗さん。おっ母さんが幾ら宥めても駄目なの、どうしてもお父つァんは怒って肯かないのよ」