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にんげんせいかつのむじゅん

人間生活の矛盾

丘 浅次郎

線上閱讀丘 浅次郎《人間生活の矛盾(にんげんせいかつのむじゅん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,798 字 · 36 頁

青空文庫

いわゆる英雄崇拝の心理はこのとおりである。しかし今日では、かような人間のたくさんいる中に交って、階級本能の大分退化した人たちもおいおい現われ、遠慮なく従来の階級制度を攻撃し、上の等級の者に対してわざわざ軽蔑の意を表するようになったが、そのためにも人間生活の矛盾が一つ殖えた。先日ロシヤの学士院の人から郵便物を受け取ったが、その封筒は帝国時代の残り物で、表面に皇立学士院という文字があり、「皇立」だけはとくに頭文字で印刷してあったのを墨黒々とていねいに消してあった。しかしてその隣りのペトログラードという字をレーニングラードに直してあったのを見ると、階級の破壊を実行した革命派の人々でも、心の奥には、やはり偉人を崇拝せずには居られぬ階級本能が、依然としてなお残っているものと思われる。本能の退化がなかなか手間の取れることはこの一事をもっても明らかである。

階級本能の退化せぬ人間が今もなおいかに多いかは、馬鹿馬鹿しい迷信が相変らず跋扈しているのを見ても知れる。そもそも宗教なるものは階級本能の全盛であった時代に脳の働きの副産物として生じたもので、神とか仏とか教祖とかを自分の頭の上に戴いてありがたがるのであるから、階級本能の退化した人間にはとうてい信ぜられるものではない。