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なかなかしなぬあいつ

仲々死なぬ彼奴

海野 十三

線上閱讀海野 十三《仲々死なぬ彼奴(なかなかしなぬあいつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,216 字 · 18 頁

青空文庫

退場しなければならなかった。

喜助は、重い足をひきずるようにして、叔父の家の二階へ、帰って行った。

三

二階の薄汚い彼の居間に入ると、彼は、耐えとおして来た悲しさと口惜しさとを一時に爆発させて、側らの硝子戸がビリビリ鳴り出したように思われるほど、大声を挙げて、泣いて泣いて泣きまくった。この室こそ彼にとって独占の天下であった。そこには誰も入ってくるものがなかった。叔父や叔母たちには彼の泣き声が耳に入らぬではなかったが、明日にさし迫った大熊老人の葬儀に供えるための、大青竹の花筒を急造したり、山のように到着した榊や花を店前に下ろしたり、それに続いて、その大花筒に花をさしわけたりする仕事のために、一分とその場を離れることができなかった。従って二階へ上って喜助を慰問してやることは、当分のうち全く不可能であるといってよい。喜助は、いよいよ落着いて泣きつづけた。

だが、その快よい悲歎の泪を、ときどきチクリと止める何物かが夾雑していることに、喜助は気付かないわけにゆかなかった。それは何といいあらわすべきであろうか。早く言うなれば大熊老人の死に纏る莫然たる疑惑であった。