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えせものがたり
似而非物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《似而非物語(えせものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 頁
杢助は寝そべっていた。お登女さまの方は見もしないし、云うことを聞いてもいなかった。お登女さまの方へ頭の天辺を向け、肱枕をして、北側にある小窓の外を眺めていた。杉林の木の間越しに遠くずっと高く、残雪のある峰がほんの僅かばかり覗いていた。此処は谷峡であり杉林に囲まれているので、もう午後の蒼さびた光に浸されているが、その高く遙かに遠い峰の残雪は、斜めに、太陽をうけて鮮やかに白くきらきらと輝いていた。
「お登女さまがあんなに仰しゃってるだに」
と弥市が云った。
「なんとか御挨拶しねえだか、いんや、さっしゃらねえだかんだ、御挨拶うさっしゃんねえだかよ、杢助、おめえ大先生だっつうでねえか、おめえが大先生の御本尊だっつうでねえか、村じゅうが胆を潰してひっくら返ってるだによ」
杢助は黙っていた。
お登女さまはなおも云い続けた。杢助がただ者でないことは、亡くなった母が予言していた。こんど彼が帰ったと聞いたとき、自分はすぐ母の予言を思いだし、黒門へ迎える決心をした。それは彼が偉い人間になって帰ったに相違ない、と思ったからであり、今日それは証明されたのであった。黒門の代々の伝説は虚構ではなかった、彼は緋縅の大鎧も衣ておらず金鍬形の兜もかぶっていない。