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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《似而非物語(えせものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 頁

青空文庫

「おお、正しくこれは飯篠先生」

尾井幾兵衛となのる侍は、こう云ってそこへ片膝をついた。長威斎は遁世しているのであった。俗世と縁を切ったので、自分が長威斎である、と云う筈はなかった。長威斎ではない、と云う者こそ長威斎その人である筈だった。庭にはぶら下げた木剣で修練をしている者がいたし、もう一人の修業者は肩を揉んでいた。年配からいっても、正しくその人こそ長威斎先生でなければならなかった。

「御閑居を騒がす罪はお赦し下さい」

幾兵衛は確信して云った。

「じつは、金沢城に大事出来、ぜひとも先生の御助力があおぎたく、領主の命により押して参上つかまつりました」

「違うだっつうに、おら長威斎でも先生でもねえだ、ほんのことくる眼の杢助つう者だに」

「まず仔細をお聞き下さい」

尾井幾兵衛は構わずに云った。要点をしるすと、岩見重太夫という大豪傑が金沢城へやって来た。天下無双であり、ちょっと形容しがたいほど魁偉な大豪傑であった。彼は前田家の勇士と試合を望み、どう断わっても承知しなかった。試合をさせないのなら城を明け渡せ、と云うのであった。試合をして自分が負けたら首をやるが、勝ったら金沢城をそっくり貰う、と云うのであった。