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さっかときょうようのしょそう

作家と教養の諸相

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《作家と教養の諸相(さっかときょうようのしょそう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,291 字 · 9 頁

青空文庫

ところが、日本の近代文学の血脈は、自然主義を生んだフランスの思想と文学の伝統とはまるきりちがっていて、フランスの有識人が代々を経て来た啓蒙時代、唯物論時代を経ていない。同じ自然主義の流れも、日本の生活の現実の土壤をうるおして結んだ実は、既成の教養を否定するに足る新たな文化力としての鋭き現実的な教養ではなかった。日本の市民一般のおかれていた教養の低い水準のままに作家の内的世界も肯定された形をとらざるを得なかったと見られる。

夏目漱石の文学、森鴎外の文学及び、漱石系統の帝大などを出た新しい作家たちの作品が、知識人の間に広く反響をもったのは、一方に自然主義の傾向をもった文学の、桶を桶というに止ったような真実性への反撥であったと思えるのである。

しかしながら、夏目漱石にしろ森鴎外にしろ、何と日本の明治時代そのものの文化的混淆を大きくその生涯に照りかえしていることだろう。漱石のイギリス文学の教養、支那文学の教養は、二つながら他の追随を許さぬ程度であったらしいが、彼の作品は、決してこの二つの教養の源泉からだけは生れていない。明治元年に生れた日本の男という、その時代が彼にたたきこんだ封建のぬけきらない、儒教の重しがのき切らない一生活人の脈搏が漱石の全作品を貫いて苦しく打っているのが感じられる。