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ちゅうとう

偸盗

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《偸盗(ちゅうとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,934 字 · 97 頁

青空文庫

こう思ったおれは、あの酔いどれのおやじの顔を見るたびに、何度太刀へ手をかけたか、わからない。が、沙金はそのたびに、おれの前で、ことさら、手ひどく養父をばかにした。そうしてその見え透いた手くだがまた、不思議におれの心を鈍らせた。「わたしはおとうさんがいやでいやでしかたがないんです」と言われれば、養父をにくむ気にはなっても、沙金をにくむ気には、どうしてもなれない。そこで、おれと養父とは、きょうがきょうまで、互いににらみ合いながら、何事もなくすぎて来た。もしあのおじじにもう少し、勇気があったなら、――いや、おれにもう少し、勇気があったなら、おれたちはとうの昔、どちらか死んでいた事であろう。……)

頭を上げると、太郎はいつか二条を折れて、耳敏川にまたがっている、小さい橋にかかっていた。水のかれた川は、細いながらも、焼き太刀のように、日を反射して、絶えてはつづく葉柳と家々との間に、かすかなせせらぎの音を立てている。その川のはるか下に、黒いものが二つ三つ、鵜の鳥かと思うように、流れの光を乱しているのは、おおかた町の子供たちが、水でも浴びているのであろう。

太郎の心には、一瞬の間、幼かった昔の記憶が、――弟といっしょに、五条の橋の下で、鮠を釣った昔の記憶が、この炎天に通う微風のように、かなしく、なつかしく、返って来た