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げんろくじゅうさんねん

元禄十三年

林 不忘

線上閱讀林 不忘《元禄十三年(げんろくじゅうさんねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,586 字 · 42 頁

青空文庫

恥かしながら、このざまだ――。」

「へ?」

平茂が訊き返したが、辰馬は、ひとり合点でしゃべりつづけた。

「不如意だらけ――どうにもこうにもやりきれんのだ。一時、女房を預けたいと思うのだが――。」

「糸重様を?」平茂は、歩をとめて、狡猾そうに辰馬を見た。「御冗談で。」

「背に腹は換えられぬ。本人も承知だ。妾奉公でも何でも、といっておる。」

二人は、どっちからともなく、降雪の中に、膝を包んでしゃがんでいた。

声をひそめて、辰馬が、

「貴様、鍛冶橋のおやじにひとり、頼まれてるというじゃねえか。」

「吉良様ですか。よく御存じで。」

「地獄耳よ。早えやな。きまったのか、そっちのほうは。」

「いえ、まだお見せしたわけではなし、決まったというわけではございませんが――ほんとですか、殿様。」

「うそでこんなことがいえるか。ぜひ糸重を吉良へ世話してくれ。頼む。勿論、五万三千石の弟の奥では困るから、そこはそれ、そちのいつもの伝で、要領よく、魚屋なり灰買いなり、仮親に立てて――。」

「糸重さまを、ね。糸重様なら、申し分ござんせんが、御身分を隠して、と――。」

平茂の眼に、異様な輝きが来た。