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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《光は影を(ひかりはかげを)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 頁
京野等志は、まだその戦法に熟達はしていないが、闘志満々、義憤に燃えて、蠅たゝきを持つ手が、ぶるぶる、ふるえているのである。しかし、熊ん蜂は、なかなか、近くへ寄つて来ない。
小萩は、いらいらしながら、こつちを見ていた。
「チクショウ!」
と、京野等志は、歯ぎしりをした。
が、その時、どうしたはずみか、熊ん蜂の大きな図体が、急に丸まつたと思うと、それこそ、木の実が落ちるように、ポタリと地面にころげ落ちた。よくみると、その頸に一匹の蜜蜂がしがみついて、尻の剣を深く背中に突き刺していた。
「やられたよ、とうとう……。しかし、あくまで一騎打ちとは面白いな。見せようか? やつた蜜蜂も、むろん死んでるよ」
蜜蜂は、敵の体内に剣を残して、自分も、そこで生命を終るのである。
小萩は、そんなものは見なくていゝというので、京野等志は、そのまゝ、上へあがつた。霧はもう、崖を這つて、向うの林を墨絵のようにぼかしはじめていた。
「呑気なやつらだ。どつちも、大した用事なんかないのに、わざわざ、こんなところへやつて来やがる。君の名前は黙つてるわけにいかんから、喋つたが、二人ともむろん、君のことは覚えてるんだから、ちよつと会つて、一言なんか言つてやればいゝのに……」