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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《光は影を(ひかりはかげを)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 頁
友人の南条己未男がかねてすゝめてくれていた翻訳の手伝いも、会つて話をしてみると、今はもうそれほど口がないということで、そんならどこか勤め口でもと、心当りを歩いたり、あちこちへ手紙を出してみたりしたが、すこしもラチがあかなかつた。いずれもていのよい断りの一手で、彼の希望は片つぱしから崩されていつた。なるほど、こいつは深刻だ、と彼はやつと時代の真相にふれた思いで、いくぶん、あわて気味であつた。職業安定所にも通つた。肉体労働以外の口は、おおかた怪しげな、人を小馬鹿にしたような仕事か、さもなければ、採用者の顔を見ただけで虫ずの走るような、職場しか廻つて来なかつた。
――仕事とは、いつたい、なんだ?
そう考えて、彼は暗澹とすることがあつた。選り好みをするうちは、まだ余裕があるのだ、と、ある友人は言うのだけれども、彼は必ずしもそうは思わない。選り好みの標準次第では、人間の生き甲斐にかゝわる問題ではないか。食うためだけに、心にそまぬ、つまり、人間らしくない仕事をするくらいなら、空腹に堪えて死を待つ方がましだ、と、彼は結論をくだした。
結論はなるほど、そうくだしはしたが、事実、ぶらぶらしていて、しかも腹はすかぬ今の立場であつてみれば、無為徒食を共にするというのは、とりもなおさず、黙つて飯を食わしてくれる家というものが