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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

と、喚き立てるというのである。世間の人の評判では、その異形な怪物こそは、紋兵衛のために苦しめられたいわゆる可哀そうな債務者の霊で、家や屋敷を取り上げられたのを死んだ後までも怨恨に思い、それで夜な夜な現われては、「返してくだされ! 返してくだされ!」と、喚き立てるのだというのであった。

一一

相手が兇悪な盗賊とかまたは殺人の罪人とか、そういうものを退治るなら一も二もなくお受けしようが、亡魂とあっては有難くない――これが葉之助の心持ちであった。

「主命を拒むではござりませぬが、私如き若年者より、他にどなたか屈強なお方が……」

「いや」と駿河守は遮った。「お前が一番適当なのだ。拒むことはならぬ、是非参るよう……新刀なれども堀川国広、これをそちに貸し与える。退治致した暁にはそちの差料として遣わそう」

「そうまで仰せられる殿のお言葉をお受け致さずばかえって不忠、参ることに致します」

「おお参るか。それは頼もしい」

「ご免くだされ」

と座を辷る。

「大事をとって行くがいいぞ」

「お心添え忝けのう存じます」

国広の刀をひっさげて葉之助はご前を退出した。

富豪大鳥井紋兵衛の邸は、二本榎と俗に呼ばれた、お城を離れる半里の地点、小原村に近い耕地の中に、一軒ポッツリ立っていたが、四方に林を取り巡らし、濠に似せて溝を掘り、周囲