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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

さすがは豪家のことであって書画や骨董や刀剣類には、素晴らしいような逸品があったが、惜し気なく取り出して見せてくれた。これも彼には嬉しかった。

お露とたった二人だけで、数奇を凝らした茶室の中で、彼女の手前で茶をよばれたのは、分けても彼には好もしかった。

石州流の作法によって造り上げられた庭園を、お露の案内で彷徨った時、夕月が梢に差し上った。

「綺麗なお月様……」

「おお名月……」

二人は亭に腰掛けた。

葉籠りをした小鳥の群が、にわかに騒がしく啼き出した。あまりに明るい月光に、朝が来たと思ったのであろう。

いつか二人は寄り添っていた。互いの体の温りが、互いの体へ通って行く。二人の心は恍惚となった。

ふとお露は溜息をした。

と、葉之助も溜息をした。

ピチッと泉水で魚が跳ねた。

後はひっそりと静かである。

互いに何か話そうとして、なんにも話すことが出来なかった。話そうと思えば思うほど口が固く結ばれた。

で二人は黙っていた。二人とも若くて美しい。二人とも恋には経験がない。これが二人には初恋であった。

二人は漸次恥ずかしくなった。で顔を反向け合った。しかし体はその反対に相手の方へ寄って行った。