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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁
その間、覆面の侍は、幾度か刀を抜きかけたが、前を行く武士の体から光物でも射すかのように気遅れして果たさなかった。
尚二人は歩いて行った。
木屋町の角まで来た時であった。もう一人武士が現われた。羅紗の合羽を纏っている。
羅紗合羽のその武士は、傘の武士と覆面の武士との、その中間に挟まった。
それと見て取った覆面の武士は、さりげなくそっちへ寄って行った。
一道の殺気迸ると見えたが、覆面の武士の両腕には早くも刀が握られていた。
「待て!」
と云う周章てた声! 合羽の武士が叫んだのであったが、それを聞くと覆面の武士は、一歩後へ退いた。
「おお、あなたはお父上!」
「おのれ、葉之助! さては汝が!」
「ご免!」
と叫ぶと覆面の武士すなわち葉之助は踵を返し、脱兎のように逃げ出した。とたんに「かっ」という気合が掛かり、傘の武士の右手から雪礫が繰り出された。
手練の投げた雪礫は砲弾ほどの威力があり、それを背に受けた葉之助はもんどりうって倒れたが、そこは必死の場合である。パッと飛び起きて走り去った。あまりに意外な事実に、呆然とした弓之進はただ、棒のように立っていた。その時彼を呼ぶ者がある。