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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

北山と一学とは人目を憚り、駕籠でこっそり帰った。そうしてどこへ行ったものか、しばらく消息が解らなかった。

さてここで物語は少しく別の方へ移らなければならない。

ここは寂しい宇田川町、夜がしんしんと更けていた。

源介という駕籠舁きが、いずれ濁酒でも飲んだのであろう、秋だというのに下帯一つ、いいご機嫌で歩いていた。

「金は天下の廻りもの、今日はなくても明日はある。アーコリャコリャ。アコリャコリャ」

こんなことを云いながら歩いていた。

と、手近の行手から女の悲鳴が聞こえて来た。

「へへへ、どいつかやってやがるな。アレーと来りゃこっちのものだ。こいつ見遁がしてたまるものか。どれどれ」と云うとよろめく足で、声のした方へ走って行った。

はたして小広い空地の中で、二人の男が一人の女を、中へ取りこめて揉み合っていた。

「やい、こん畜生! 悪い奴だ!」

源介は濁声で一喝した。「ところもあろうに江戸の真ん中で、女悪戯とは何事だ、鯨の源介が承知ならねえ! 俺の縄張りを荒らしやがって、いいかげんにしろ、いいかげんにしろ!」

この気勢に驚いたものか、ワーッというと二人の男は、空地を突っ切って逃げ出した。