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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

しかし彼の驚きは――いや彼の恐怖心は、しばらく経つと倍加された。彼は一層驚いたのであった。

さらにさらに恐怖したのであった。

と云うのはそれらの人々が、決して苦しんでいるのではなく、そうして何者かに幽囚されて、呪詛い悲しんでいるのではなく、否々それとは正反対に、喜び歌い、褒め讃え――すなわち何者かに帰依信仰し、欣舞しているのだということが、間もなく知れたからであった。

呪詛の声と思ったのは、実に讃美の声なのであった。

「光明遍照! 光明遍照! 喜びの神! 幸いの神! 男女の神! 子宝の神! おおおお神様よ子宝の神様よ! どうぞ子宝をお授けください!」こう讃美する声なのであった。

ここは邪教の道場なのであった。ここは淫祠の祭壇なのであった。

おお大江戸の真ん中に、こんな邪教があろうとは!

と、その時、忽然と、音楽の音が響いて来た。

まず篳篥の音がした。つづいて笙の音がした。搦み合って笛の音がした。やがて小太鼓が打ち込まれた。

……それは微妙な音楽であった。邪教に不似合いの音楽であった。神聖高尚な音色であった。

俄然道場は一変した。男は女から飛び離れ、女は男から身を退けた。