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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁
その時、岩にでも乗り上げたものか不意に橇が傾いた。とたんに多四郎は懐中からヌッと腕を引き抜いたが、その手が空へ上がったかと思うとキラリと何か閃めいた。と権九郎は「あッ」と叫びバラリ手綱を放したが次の瞬間にはゴロリとばかり雪の中へ転げ落ちた。
「多四郎! わりゃ、俺を斬ったな」
血に塗れた肩先を片手で確り抑えながら、権九郎は体をもがいたものである。
多四郎は短刀を逆手に握り悠然と橇から下り立ったが、冷ややかに権九郎を睨み付け、
「どうだ権九、苦しいか」
「仲間を斬ってどうする気だ! さては手前血迷ったな。あ、苦しい。息が詰まる」
「何んで俺が血迷うものか。ずんとずんと正気の沙汰だ」
「なに正気? むうそうか。それじゃ汝アあの獲物を……」
「今やっと気が付いたか。……一人占めにする気だわえ」
「そうはいかねえ!」
と云いながら権九郎はヒョロヒョロ立ち上がったが、肩の傷手に堪えかねたものか、そのままドシンと尻餅をついた。
「そっちがその気ならこっちもこうだ、さあ小僧覚悟しろ!」
これも呑んでいた匕首を抜くと、逆手に握って構えながら、立て膝をして詰め寄った。
馭者を失った犬どもがこの時烈しく吠え出した。