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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁
柵は物にでも襲われたように両手で顔を抑えたが、「何も彼も妾は覚えている。あああの晩の恐ろしかったことは……」
「……その夜お城から乗り出した軍装いした二隻の船には互いに剣を抜きそばめ互いに相手を睨み合った若い二人の武士が乗っておられた筈でござりますな。……それこそ他ならぬあのお二方。画像のお方達でござります」
「それも妾は覚えている。一人は橘宗介様! おお妾の許婚!」
「はい、そうしてそのお方様こそこの城の主でござりました。そうしてもう一人のお方様は宗介様のおん弟夏彦様でござりました」
「夏彦様! 夏彦様!」
三
突然思慕に堪えないようにこう柵は叫んだが、そのままぐるりと窓の方へ向いた。そうして両手を差し出して遥か湖水の彼方の方にその恋人が立っているのを招くかのように打ち振った。
「不吉の夜でござります」――老いたる従者はまた云った。「何故と申しますに、十四年前の古い思い出が甦り蝮に噛まれた昔の傷がちょうどズキズキ痛むように痛んで参ったからでござります。――ご覧遊ばせ、赤い船の灯が次第次第にこのお城へ近寄って参るではござりませぬか。……次第次第にこのお城から遠ざかって行った十四年前の二隻の軍船とは反対に。