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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

双方機嫌よく挨拶する。

若党使僕五人を連れ他に犬を一頭曵き、瓢には酒、割籠には食物、そして水筒には清水を入れ、弓之進は出で立った。

奥様は玄関へ手をつかえ、

「ごゆっくり」と云って頭を下げる。

「奥、それでは行ってくるぞ」

で、一行は門を出た。

間もなく野良路へ差しかかる。ザクザクと立った霜柱、それを踏んで進んで行く。

二

的場、野笹、長藤村、それから目差す鉢伏山だ。

鉢伏山の中腹で一同割籠をひらくことになった。見渡す限りの満山の錦、嵐が一度颯と渡るや、それが一度に起き上がり億万の小判でも振るうかのように閃々燦々と揺れ立つ様はなんとも云われない風情である。

「よろしゅうござるな」

「いや絶景」

と、弓之進も北山も満足しながら瓢の酒を汲み合った。

その時突然供の者どもが一度にワッと立ち上がった。

「熊! 熊!」と騒ぎ立つ。

「何、熊?」と弓之進は、若党の指差す方角を見ると横手の谷の底に当たって真っ黒の物が蠢いている。いかさま熊に相違ない。あっと見るまに大熊はこっちを目掛けて駈け上がって来る。

「金吾、弓を!」と弓之進は若党を呼んで弓を取った。名に負う鏡弓之進は、高遠の城主三万三千石内藤駿河守の家老の一人、弓は雪河流の印可であるが、小中黒の矢をガッチリとつがえキリキリキリと引き絞ったとたん、