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はじめてにしだきたろうのなをきいたころ

初めて西田幾多郎の名を聞いたころ

和辻 哲郎

線上閱讀和辻 哲郎《初めて西田幾多郎の名を聞いたころ(はじめてにしだきたろうのなをきいたころ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,030 字 · 8 頁

青空文庫

の序文を読んだ。そうして非常に動かされた。しかしそのなかに「とにかく余は今度我が子のあえなき死ということによりて、多大の教訓を得た。名利を思うて煩悶絶え間なき心の上に、一杓の冷水を浴びせかけられたような心持ちがして、一種の涼味を感ずるとともに、心の奥より秋の日のような清く温かき光が照らして、すべての人の上に純潔なる愛を感ずることができた」という個所のあるのに対して、特別の注意をひかれることはなかった。名利を思うて煩悶するというようなことに特別の内容が感じられなかったのである。しかし現在のように、『善の研究』を処女作としてその後に大きい思想的展開を見せた哲学者として西田先生を考える場合、従って明治四十三年の先生がかつてその名を聞いたことのない哲学者と呼ばれている場合、右のような言葉はかえって率直に理解せられ得るかも知れない。右の文章を書いた、先生は戸籍面四十歳、実年齢三十八歳であった。その年齢の先生に、名利を思うて煩悶絶え間なき心があったとしても、少しも、不思議ではない。実際そのころの先生は、力量相応の待遇を受けてはいなかったのである。