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とねのしゃくあゆ
利根の尺鮎
佐藤 垢石
線上閱讀佐藤 垢石《利根の尺鮎(とねのしゃくあゆ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,342 字 · 13 頁
左を指す群れは、本流へ。片品川へ入った一群は、ひた遡りに遡って、五里上流の吹割滝の滝壺まで達した。本流を辿る一群は、曲がつ滝の奔流と闘い、上川田村の肩を曲がり、茂左衛門地蔵の前を通って、地獄や青岩に一瞥をくれ、小松まで泳ぎついて、ほっとするのは、六月も終わりの頃であった。顧みれば、銚子の海に別辞を残してから、既に何十里の旅を続けたろう。恐らく、百里に近くはあるまいか。
若鮎は、一人前の生活力が、からだから溢れるのを感じていた。
しかしながら、利根川は水温が低い大河である。吾妻川との合流点から上流は、六月に入ってからでも、摂氏の十二度を超えまい。また水量の多い川である。坂東橋の橋下で、平均六千個というのだ。これでは、なかなか水は温まらないのである。そして、水源に抉り込んだ深渓には、四季雪原と雪橋が消えないのだ。
上州側には大刀寧岳と剣ヶ倉、白沢山。越後側に聳える兎岳、越後沢山、八海山、越後駒ヶ岳などを合わせた山々は、標高僅かに七、八千尺に過ぎないけれど、人里遠いことにおいては日本一である。その山々から滴りでて、深い渓の底の落葉を潜り、陽の眼を見ないで奔下する水であるから、真夏になってからでも、朝夕は身に沁みる冷たさを覚えるのは、当たり前であろう。